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採卵前のトリガーに関する論文②

論文紹介

採卵前のトリガーとしてGnRHアゴニストとHCG投与の両方を使うことにより卵子の成熟率が改善する、という報告です。

Dual trigger with gonadotropin-releasing hormone agonist and standard dose human chorionic gonadotropin to improve oocyte maturity rates

Griffin D, Feinn R, Engmann L, Nulsen J, Budinetz T, Benadiva C.
Fertil Steril. 2014 Aug; 102(2):405-9

「GnRHアゴニストとHCG投与の2重のトリガーは卵子の成熟率を改善する」

要約

目的

過去の採卵周期に未熟卵子が25%より多かった患者に対し、その後の周期でdual triggerを用いた場合に成熟卵子数は改善するかどうかを検討した

対象

2008年1月から2012年2月の治療患者のうち、過去の採卵周期で未熟卵子が25%より多かった患者で、その後の体外受精周期でtriggerとしてGnRHアゴニストおよびHCG5000単位もしくはHCG10000単位を投与した患者を対象とした

目標

成熟卵子の割合とその後の受精率の評価

結果

dual triggerを用いた場合に成熟卵子数は前周期に比べて、有意に増加した(75%vs. 38.5%)。dual triggerを用いた場合の着床率、臨床的妊娠率、継続妊娠率は各々、11.8%、26.1%、17.4%であった。

結論

過去の採卵において成熟卵子の割合が低かった患者で、次周期にdual triggerを用いた場合の成熟卵子の割合が改善した(75%vs.38.5%)。しかし、体外受精による妊娠成績には反映されておらず、そういった患者群においては、卵子機能不全が関与していることが示唆された。

考察

採卵時に未熟卵子の割合が多い患者がどの程度存在するのかは不明である。卵子成熟障害の病因は複雑であり、今日に至るまで効果的な治療法は報告されていない。
未熟卵子の割合が多い患者に対する治療法のオプションとして、IVM(未熟卵体外成熟)や、HCG triggerから採卵にいたるまでの時間を長くする試みや、trigger自体をGnRHアゴニストに変更する試みがある。

①IVMについて

IVMはこういった患者に対する潜在的な治療法となる可能性はあるが、いまだ発展段階であり、臨床応用には及んでいない。(現在までのところIVMの有効性は認められていません)

②Triggerから採卵までのタイミング

TriggerとしてのHCG投与と採卵のタイミングに関しては、排卵前に成熟卵子を最大限採取するために今までにも研究がなされてきたが、いまだ確立されてはいない。NargundらはHCG投与後33-41時間の間であれば、体外受精での妊娠成績に差はないことを報告している。メタアナリシスでは、HCG投与から採卵までの間隔を長くすることでの受精率、着床率、妊娠率に差は認めなかった。そういった観点から、triggerとしてのHCG投与から採卵までの時間の調整は、卵子成熟を促すオプションといえるが、その後の体外受精による妊娠成績を向上するものではない可能性がある。

③Triggerとして単独でGnRHアゴニストを用いる長所と短所について

GnRHアゴニストtriggerは卵子成熟を促すため、臨床において使用されている。内因性のFSHやLH surgeを引き起こすことに加えて、GnRHアゴニストは卵巣顆粒膜細胞上に受容体があり、それが排卵を制御する上で重要な役割を担っていることがわかってきた。未熟卵子の割合が多い患者に対して、FSHやLHのみでなく、このGnRHアゴニスト自体も含めてそのコンビネーションが卵子成熟の改善に寄与している可能性がある。但しGnRHアゴニストはtriggerとして単独で投与すると、黄体機能が早期に衰えるため、その後の妊娠率の低下と流産率の増加を生じることが分かっている。(HCG投与との併用が良い)

④dual triggerの長所について

dual triggerの使用は、HCGを同時投与することによりGnRHアゴニストによる黄体機能に対する負の影響をうち消し、妊娠率を向上すると考える。GnRHアゴニストtriggerはempty症侯群の治療にも効果的であったとする報告もあり、最近では、卵子成熟化障害を伴うempty症侯群の患者にdual triggerを用いることで、妊娠に至ったとする症例も2013年にCastilloが報告している。

⑤本研究のlimitationについて

本研究のlimitationは、本研究が後方視的研究であることと、dual trigger周期において前周期との変更がtriggerの違いのみではなかった点である。卵巣刺激法が異なっていた患者がいることや、triggerとしてのhCG投与と採卵までの時間がdual trigger周期で長かった患者がいることや、triggerとしてのhCG投与量がdual trigger周期で多かった患者がいることである。こういった交絡因子を調整した後も、成熟卵子の割合がdual trigger周期において有意に高かったのはdual triggerによる影響と考える。ただ、採卵数や成熟卵子の割合の増加にも拘らず、体外受精後の生産率の向上は認められておらず、こういった患者群においては、本法を用いても改善出来ない、卵子自体のなんらかの機能障害が内在していることが示唆される。

院長の私見

トリガーの効果が不十分だと、未熟卵が多かったり、卵子が卵胞壁から離れないため空胞卵胞が多かったりします。さらに空胞卵胞症候群の論文にあるように、分割が遅く胚盤胞に至りません。HCGをトリガーとして採卵して空胞が多く、未熟卵が多く、受精卵の発達が遅く、胚盤胞到達率が低ければ、トリガーが効果的でない可能性が高いです。HCGレセプターの機能が悪いのだと思います。
その場合、GnRHアゴニストをトリガーにする、すなわちLHサージをトリガーにすると、大いに改善する可能性があります。
逆にGnRHアゴニストをトリガーにして空胞、未熟卵が多い場合、HCGをトリガーにすると良好胚が得られる症例があります。脳下垂体の反応が不良で、十分なLHサージを誘起できないのだと思います(PCOの一部など)。
空胞卵胞症候群の頻度は諸家の報告から3%程度でその頻度は低いと思われます。よって、患者さん個々にはトリガーを変更することが有効である症例もあると思いますが、この論文のように未熟卵が多かっただけでdual triggerにしても、多くの人数を集めた場合、妊娠率は変わらないと思います。