採卵した周期に発育の早い胚があれば、採卵後3日目または5日目で移植を行うことができます。採卵周期では、後述の通り刺激の影響により子宮の内膜が胚の日付よりも早く進んでいるため、着床に最適な状態ではありません。また、特に採卵数の多い場合は、OHSSといった副作用を予防するため、妊娠を避けなければならない状況もあり得ます。採卵後の胚の状態や体調などによって、移植を行うかどうか相談します。
移植しなかった胚は、胚盤胞まで育ててからガラス化(凍結)によって保存します。凍結胚移植については、自然周期(自身の排卵に合わせた)移植とホルモン補充周期(薬で内膜を厚くしてから)移植があります。それぞれのメリット・デメリットを以下に説明します。どちらが合っているかは人によって異なりますので、医師と相談の上決定します。
自然周期移植
長所
・自然に近い方法なので、より生理的である
・ホルモン補充期間がやや短い(8週頃まで)
短所
・通院の回数が多い(移植までに4回程度)
・移植日が都合に合わせて決定できない
・ホルモン値が悪い場合キャンセルとなる可能性がある
ホルモン補充周期移植
長所
・通院回数が少なくてよい(移植までに最低1回)
・スケジュールの調整がしやすい
短所
・ホルモン補充期間が長い(9週6日まで)
・まれにホルモン補充周期では着床し難い症例がある
胚盤胞のガラス化保存について
HARTクリニック(広島・東京)では、2003年10月にこの方法を完成させると、この独自性が世界に認められ世界中から多くの医師や胚培養士がこの方法を学びにやってきました。この方法を用いて、現在世界中で胚の保存や、卵子の保存が行われています(卵子の保存はガラス化法で初めて可能になりました)。
さらに当院では、胚盤胞のすべての細胞を瞬時にガラス化するため、収縮した胚盤胞を180度ではなく、360度の方向から超急速にガラス化するという、他の施設とは異なる、かつ技術と熟練を要する方法でガラス化保存(凍結)を行っております。日本でこの方法を用いている不妊治療施設は、当院を含め3施設のみです。
胚盤胞を治療に用いる利点は、
- すでに胚盤胞になっている受精卵は赤ちゃんになる確立が高い
- 着床状態の改善が期待できる
の2点です。
1.は当然ですが、赤ちゃんになる受精卵は胚盤胞になります。胚盤胞にならない卵を移植しても妊娠しません。ただし、ラボ内の環境が最適でなければ良い受精卵は育ちません。東京HARTの胚盤胞到達率は、52~60%です(通常の施設では33%程度です)。
2.については、採卵周期は黄体ホルモンが早く上昇するため子宮内膜の日付が約1.8日受精卵より早く進んでいると考えられています。移植日にこのずれがあるため子宮内膜と胚盤胞が対話できずに着床しない患者さんが少なからずいます。胚盤胞をガラス化保存し、採卵周期とは別の周期で子宮内膜を作成(子宮内膜と胚盤胞の日付をずれないように同期させて周期を作成)し、ガラス化保存した胚盤胞を融解移植すれば着床の問題はほとんど解決できるのです。
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