体外受精で妊娠するために必要な因子は、以下の3つです。
- 卵の質
- 子宮の環境
- 着床の問題
1. 卵の質
赤ちゃんになるような良質の胚であるか、というのは、最も大切なことです。卵の質を最も詳しく判断できるのが、「胚盤胞培養」です。良質な胚盤胞ができる方は、妊娠、出産の可能性が高くなります。
通常は、初回の体外受精(顕微授精)で2-3日目の良質な胚を1個移植し、残りの胚を胚盤胞まで育てることで、胚の診断をします。このときの余剰卵からできた胚盤胞が良質であれば、移植した胚も良質であったといえます。つまり、この患者様が妊娠しない理由は、「2. 子宮内の環境が胚の発育に適していない」「3. 子宮内膜が着床に適していない」可能性が高いと判断できるのです。
一方、残りの胚が胚盤胞にならなければ、採卵した卵の質が良質ではない可能性が高く、次のようなことを考えます。
①卵巣刺激法を変える
②注射の種類の検討
③採卵への引き金(HCG/点鼻薬)があっているか(卵子の受精の準備が十分できているか)
④受精法があっているか、特に顕微授精の場合に卵子の活性化が十分に起こっているか
⑤精子の問題はないか
などを検討します。
一般的には、女性の年齢が若いほど良質の卵を多く出すことができます。世界的にも同様です。治療時期を逃さないことが大切だと思います。
2. 子宮の環境
子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、卵管水腫などの影響で子宮内の環境が不良となる場合があります。ガラス化胚盤胞移植周期では、移植前に子宮鏡検査を行い、抗生剤の入った生理食塩水で子宮内膜を洗浄刺激して刺激するとともに、子宮内に筋腫やポリープなどが突出していないか、出血はないかなどを確認します。問題があれば手術の適応を検討します。子宮内膜ポリープは当院で子宮内膜掻爬(吸引)による日帰り手術が可能です。
子宮内に突出していない子宮筋腫であれば、大きくてもほとんどの場合問題はありませんが、なかなか着床しないような例ではGnRHアゴニスト点鼻薬を使用し、数周期生理を止めて筋腫を小さくするような処置を行う場合もあります。
卵管水腫は、移植前に水腫の吸引を行うこともあります。
3. 着床の問題
採卵周期での胚移植では子宮内膜の状態が着床に適さない方が、約半数いると考えられます。一般的に体外受精治療では、採卵周期に最も良好な胚を移植し妊娠を目指します。しかしその成功率は当院のデータや諸外国からの報告から、せいぜい50%程度です。その原因は胚の質以外に着床の問題がおきる方がいるために、それ以上には妊娠率が上がらないのです。
着床は子宮内膜と胚盤胞になった受精卵とが対話して行なわれますが、採卵周期では黄体ホルモンが採卵より早く上がるため、子宮内膜と受精卵(胚)の着床時期にずれがおこります(子宮内膜の方が約1.8日先行していると考えられている)。そのため対話がうまく行なわれず、着床できない人がいます。したがって、発育の遅い受精卵は着床がより遅れるため、子宮内膜とのずれがより大きくなりさらに着床しにくくなります。このタイプの方は、採卵周期にいくら良好な受精卵を何回戻しても妊娠しません。
前もって採卵周期に着床の問題が起こるかを知ることは出来ません。採卵周期に移植して、妊娠して、胎嚢が確認できて初めて着床の問題は起こっていないと言えるのです。HCGの反応が出るだけでは着床の問題を否定できません。その着床の問題を克服するために、採卵周期とは異なる周期に子宮内膜を作成し、子宮内膜と受精卵の日付にずれがない周期をつくります。すなわち、HARTクリニックでは、胚盤胞を超急速ガラス化保存したものを内膜の日付に合わせて融解移植します。
この方法により基本的に、着床の問題はなくなり、70%程度の妊娠率の達成が可能になります。しかしHARTクリニックのように完成された受精卵の培養環境や保存法を用いないと達成できません。現在の東京HARTクリニックの胚盤胞到達率は52%~60%、融解後の胚盤胞生存率はほぼ100%です。