卵巣刺激
体外受精を成功させるためには、良質な成熟卵(受精の準備ができた卵)を採取する必要があります。排卵する卵はすべてが受精して赤ちゃんになるような良好卵ではないため、排卵誘発剤(HMG,FSH)を使用し、多くの卵を採取します。卵巣を刺激すると、通常より早く排卵する卵胞も育ってきます。多くの卵を成熟させるためには、自然排卵が起こらないようにする必要があります。そのために以下のような方法で卵巣刺激を行います。方法は患者さんに適した方を医師が選択します。
卵巣刺激法
(1) Long法:GnRHアゴニスト(点鼻薬;ナファレリール)
ナファレリールという点鼻薬を使って自然排卵を防ぎます。体外受精を行う前周期の排卵後7日目頃から開始し、月経3日目からHMGやFSHの皮下注投与を開始します。
(2) Short法:GnRHアゴニスト(点鼻薬;ナファレリール)
ナファレリールを体外受精開始周期の2日目か3日目から開始し、HMGやFSHは3日目から開始します。
(3) アンタゴニスト法:GnRHアンタゴニスト(ガニレストまたはセトロタイド)
月経開始3日目からHMGやFSHの皮下注射を開始します。主席卵胞の大きさが14mmに達した日からアンタゴニストの皮下注射(通常3~5日間)を開始します。
前周期投与
卵胞発育が不均等になるのを防ぐため、採卵周期の前の周期に低用量ピルを投与することがあります。また、出てくる卵の質を改善するために、ジュリナ(E2製剤)0.5~2mg/dayを排卵後から1週間内服することがあります。
卵胞計測およびHCG投与
月経2日目か3日目に卵巣の状態を超音波で確認し、ホルモンを分泌している発育の早い卵胞がないか確認します。周期によってはキャンセルとなることもあります。月経7日目か8日目から超音波検査や血液検査を行い、卵胞の発育を調べます。卵胞が成熟した日(主席卵胞が18mm以上)にHMGやFSH投与は中止し、同日夜にHCGを投与して卵の最終成熟を促し、HCG投与の約36時間後に採卵します。しかしこれらの方法で卵が十分育たない場合は治療を中止し、別の周期に他の方法で卵巣刺激を行います。
卵の採取について(採卵)
採卵当日は、朝から何も食べたり飲んだりせず、指定された時間(AM8時15分)にご主人と来院してください。採卵は膣の奥へ局所麻酔し、超音波で画像を見ながら細い針で卵胞を穿刺し、排卵前の受精の準備ができた卵を採ります。所要時間は約5分です。採卵後は1~2時間様子観察し帰宅します。採卵の個数が多かったり、不安感の強かったりする方は静脈麻酔(全身麻酔)により痛みを全く感じずに採卵できます。浅い麻酔ですぐ目覚めるので帰宅できる時間にあまり変わりはありません。採卵数は1個から20個程度と個人差がありますが、まれに0個の場合もあります。自然排卵が起こってしまったり、卵胞が空胞であったりした場合や、卵が変性していたり未熟であったりした場合などです。
精子の調整と媒精
採取された卵は、顕微鏡で成熟度を観察した後、培養器内で培養します。この間、ご主人には精液を採取していただきます。採取場所は自宅でも構いませんが、遠方の場合は当院の採精室をご利用ください。採精方法は精液検査と同様にしてください。提出していただいた精液から運動精子を選別して卵子と一緒にします。顕微授精の場合も同じ流れで行います。そして培養器内に戻します。
受精の確認
採卵日の翌日に顕微鏡で確認します。正常な精子と卵子であれば60%以上は受精します。まれに受精が遅れ、翌日には正常受精が確認できなくて2日後に確認できる場合もあります。受精が確認できた卵は、新しい培養液に移し換え、さらに培養を続けます。受精しなかった場合は、胚移植は中止になりますが、医師から顕微授精も含め今後の治療方針の説明があります。
胚移植について
採卵後2日目か3日目に受精卵は分割をして、それぞれ4分割か8分割卵(胚)になります。この胚の状態の説明を医師から受け移植の相談をします。採卵後5日目に胚盤胞になった状態で移植相談をする場合もあります。患者様の治療歴を考慮し、より良い結果に結びつくよう相談し移植したり、凍結保存したりします。