ページトップ

トピックス

Topics

3人のDNAを持つ赤ちゃん(アメリカ)

院長記事

ヒトの細胞はヒト核DNAとは異なった環状DNAを持つミトコンドリアと共存し、ミトコンドリアが生存するのに必要なものをヒトの細胞が提供し、ミトコンドリアがヒトの細胞の生存に必要なエネルギーを作っています。ヒトの細胞が分裂するときはミトコンドリアも数を増やし協調して生存しています。ミトコンドリアは原始生物のようなもので変異を起こしやすく、ヒトでは厳密に母親のみから子供に受け継がれていきます。このミトコンドリアDNAの変異から人のルーツが明らかになりました。ミトコンドリア異常によりミトコンドリア病という神経や筋肉の病気を引き起こす病気があります。また、このミトコンドリアが老化に伴い、機能障害を起こす可能性があります。

1990年代後半には、卵子の若返りということで、老化した卵子に、若い正常な卵子の細胞質を一部移植する(ミトコンドリアを移植する)方法を用いて世界で約30人赤ちゃんが誕生していました。ただし、この治療法が有効だったから赤ちゃんを授かったのかは分かっていません。しかし2000年にその方法を用いて生まれた赤ちゃんを調べたら2種類のミトコンドリアを持っているという論文が発表され、基礎医学研究の先生も巻き込んで世界的に大論争になり(ミトコンドリアが変異を起こし、ミトコンドリア病になったりする可能性が高い)、自然界で起こりえないことを子孫に残す治療は一切行わないという世界的な規則ができました。

最近、イギリスで、子供が生まれたら100%ミトコンドリア病になる夫婦に限って、核移植をという治療を行うことを国が許可しました。すなわち正常な卵子の核を抜いて患者の卵子の核を移植し受精させると、正常なミトコンドリアを持つ受精卵ができます。しかし核だけ取り出しても周りのミトコンドリアも核と一緒に移植されて、細胞は2種類のミトコンドリアを持つことになり、将来何が起こるか予測不能です。その安全性の検討をしているためイギリスでもまだ核移植は実施されていません。

今回アメリカ人医師チームがメキシコで行ったのはまさにその核移植で卵子の核を入れ替えて、受精をさせて、子宮に戻す、という方法です。患者はミトコンドリア異常が原因のリー脳症という遺伝性の難病で、4回流産を繰り返し、2人出産後子供を亡くしていました。アメリカでは上記の歴史から、同様の治療は禁止されています。女児が生まれた場合はそのミトコンドリアは子孫に受け継がれますが、男児では受け継がれません。