ページトップ

トピックス

Topics

PGSにおけるTE細胞採取数と着床率の関係

論文紹介

PGS(着床前染色体スクリーニング)によって正常染色体数の胚盤胞と診断されても、必ずしも着床するとは限らない理由を説明する手がかりになる論文を紹介します。

Number of biopsied trophectoderm cells is likely to affect the implantation potential of blastocysts with poor trophectoderm quality
「生検した栄養外胚葉(TE)細胞の数は形態不良胚盤胞の着床能力に影響する」
(Fertility and Sterility 2016;105:1222-7)

【目的】胚盤胞の発育能力は、PGD周期でTE細胞を生検した数に影響されるかを評価する
【研究デザイン】大学に付属する機関における後方視的研究
【対象】胚盤胞生検とFISHによるPGDを受ける女性
(589人中、ロバートソン転座158人、相互転座315人、逆位65人、性染色体異数性31人、X連鎖型遺伝病2人、Y染色体部分欠失18人)

【結果】生検するTE細胞の数は、胚盤胞の質と胚培養士の違いに影響された。それぞれの胚培養士(1-5)が採取する細胞の数は9個、8個、8個、6個、5.5個であり、有意差を認めた。グレードA,B,Cのグループの平均細胞採取個数は9個、7個、6個であり、TEのスコアが良いほど、採取数は多かった。(図1)

診断の効果は1-5個の生検では、数が多くなるにつれて上昇した(86.7%, 91.7%, 96.0%, 96.8%, 98.7%)。6個以上ではそれ以上に上がらなかった。

臨床成績を比較するために、生検されたTE細胞の数ごとに胚盤胞を4つのグループに分けた。TEのスコアがグレードAの場合、これら4つのグループ間で生存率と着床率は有意差を認めなかった。グレードBとCでは、生存率に差を認めなかったものの、生検する細胞数が増えるにつれて着床率は有意に減少した。(図2)
図1

<図1>

図2

<図2>

【解説】
この論文ではPGDを行う患者を対象としており、PGSを行う場合とは診断の目的が異なります。つまり、本研究では病気の原因となる特定の染色体を含むかどうかを同定するために、FISH法(染色体を免疫染色する方法)を使用しており、少ない細胞数でも診断はできています。一方PGSでは、流産を予防することが目的であり、全ての染色体の数(情報量)を定量化する必要があるため、最低でも5個程度の細胞は必要と考えられています。

本研究結果より、TE細胞のグレードがB以下では、採取する細胞数が多いほど着床率が低下することが示されました。よって、グレードがB以下の場合特に、6個以上の細胞を取るのは避けるべきと考えられます。また、採取する細胞数に培養士間で差があることから、できるだけ手技を統一するよう努めることが必要と考えられます。