難治性の症例に対して体外受精を成功さるために、当院では以下のような様々なオプションを行っています。
良い受精卵ができない、すなわち卵子の質が悪い場合の卵の質を改善する方法
① 良好卵は卵子の数が多いと得られ易いので、採卵数が少ない(3個以下など)場合は、より採卵数が多くなる周期のスケジュールを1回目のデータを参考にして計画し、質が改善するか試みます。
② 卵巣刺激周期を変える。1回目がアンタゴニスト法であれば、アゴニスト法(ショート法やロング法)に、患者さんの年齢や卵巣反応から改善する可能性のあるものに変える。
③ 低刺激法にする。年齢が高く、AMHが低い場合、刺激をやたら増やしても卵巣反応が改善しない場合や卵胞は増えない場合があります。その場合、少ない量でクロミッドを内服したりやフェマーラを内服したりして自分の刺激をメインとして、隔日でHMG注射を追加すると、卵の数が増えて、質が改善することが多いです。
④ 注射の種類を変える。通常の注射の誘発剤はFSH, HMG(FSHとLHが含まれる)の2種類がありますが、ヒトの尿由来であり純粋ではありません。リコンビナントFSH(遺伝子組み換えでつくられたもの)は、単一の遺伝子からつくられており、純粋です。尿由来より高価ですが、卵の数や質が改善する人がいます。
⑤ 前周期から前準備をする。月経開始前に1週間卵胞ホルモンを飲んで、早く育つ卵胞がないようにすると質が改善することが多いです。あるいは2週間から3週間低用量ピルを内服し、確実にリセットが行われるようにしておく。またはカウフマン療法(通常の排卵周期のように卵胞ホルモンと黄体ホルモンを内服する)を行っておく。
⑥ トリガーを変える。採卵前の引き金が十分に効いていない症例では、採卵数が少なく、正常受精卵が少なく、胚盤胞ができません。その周期がGnRHアゴニストの点鼻かHCGの注射のいずれかを引き金と=
したのであれば、両方を引き金として次回の採卵を行う。
⑦ 卵子活性化を促す。ICSI(顕微授精)で授精を行って胚盤胞ができないのであれば、次回はふりかけ(IVF)で受精を行うか、modified ICSIやカルシウムイオノフォワを用いて卵子の活性化が十分に起こるようにする。
⑧ 新鮮胚移植を検討する。40歳代で良好な胚盤胞ができない場合、新鮮胚移植が有効な場合があります。
⑨ 方法を変えても改善が見られない場合は、抗セントロメア抗体などの自己抗体がないか確認する(ステロイド投与などが有効な場合がある)。
上記の方法を用いても3周期から4周期、胚盤胞ができないのであれば、挙児を得る確率は極めて低いと考えます。
着床に問題がある可能性が高い場合、すなわち良好胚を2~3回移植しても妊娠しない場合(反復着床障害)
① 排卵後5日目(黄体ホルモン投与後5日目)の子宮内膜を採取して日付診(例えば内膜腺細胞の核下空胞は排卵後2日目から増加し、4日目から減少し始めます、6日目には消滅するということなど様々なことから総合的に日付を診断します)を行って、着床の窓がずれていないか組織学的に診断します。臨床的にも十分な経験が必要ですが、着床の窓に2日間のずれがあると何を行っても着床しないと考えます。初期胚で移植しても成功しません。着床の窓にずれがあればそれを補正して着床し易い日に移植します。反復着床障害の患者さんには、日付のずれを補正して移植し、妊娠、分娩される患者さんが少なからずいらっしゃいます。
その他に分子生物学的な検査であるERA(子宮内膜着床能検査;費用が高い、何を検査しているか公表されていない)があります。
② 内膜日付診検査の日に慢性子宮内膜炎の検査であるCD138免疫染色検査を同じ検体で行い、慢性子宮内膜炎の有無を確認し、必要があれば治療する。
慢性子宮内膜炎があると着床しにくくなり、着床しても流産が多くなります。
③ PGT-Aを行って正常染色体数の胚盤胞を3回移植すれば、95%の患者は出産したという報告があります。したがってPGT-A(着床前診断)を行って、移植する。
④ 反復着床障害の場合は、凍結胚盤胞融解移植周期の子宮内膜厚計測の超音波検査のときに、子宮鏡検査を同時に行い、子宮内膜を2から3方向scratch(引っ掻く)する。
反復着床障害に対する移植前周期の内膜scratchは効果があるとの論文があります。ただし、最近では反復着床障害以外の患者さんに行っても成績は改善しないとの報告もあります。
⑤ 子宮内膜の全面掻爬を行う。
原因不明反復着床障害の患者さんに子宮鏡検査を行うと、異常とまでは言えないが、隆起性部位があり、全面掻爬を行うと病理学的に内膜ポリープとの結果が得られそのあと妊娠出産される方がいます。超音波検査と子宮鏡で内膜ポリープ疑いが強い場合は子宮内膜の搔爬を行います。
⑥ 偽閉経療法を行い移植する。
アメリカの卵子提供の成績のデータでは、卵巣が機能しているレシピエントよりも、卵巣が機能していない閉経した患者さんの成功率が有意に高いです。その理由は分かっていません。原因不明の着床障害の患者さんにGnRHアゴニストを投与し、約2か月間閉経状態にして月経が開始しないまま内膜を作成して移植周期に入ります。
⑦ 筋層内筋腫が内腔に突出している場合や子宮腺筋症がある場合にGnRHアゴニストやアンタゴニストを投与し、筋腫や腺筋症を小さくしてホルモン補充周期に入るか、全くの自然排卵周期にガラス化胚盤胞融解移植するか検討する。
⑧ 凍結胚盤胞移植周期の黄体ホルモン補充開始3日目から4日目にHCG1000~2500単位を子宮内腔に注入し、内膜の活性化を促し、受精卵に対する拒絶反応を抑制するということを以前から行っていましたが、2019年にHCG子宮内注入は有効であるとの報告がありました。したがって最近では、移植5分から15分前にHCG子宮内注入を行っています。
⑨ ガラス化胚盤胞融解移植する周期に、2段階胚盤胞融解移植を行う。具体的には、D4(黄体ホルモン投与から4日目)にBC,CB,CCの良好ではない胚盤胞を融解移植し、D6(黄体ホルモン投与から6日目)にBB以上の良好胚盤胞を移植する。当院ではあまり行っていません。
⑩ 以前から移植胚を1個より2個、2個より3個と多く移植する方が出産率が高いという報告があるのと私の臨床経験から、着床の窓に一致した日に胚のグレードに応じて2個から3個移植しています。
⑪ 子宮外妊娠などを繰り返す場合には、筋腫などが原因して、着床期に子宮筋の運動がランダムに活発になっている症例があります。子宮筋の運動を抑制するダクチルを移植2日前から10日間内服します。
⑫ 卵管水腫があれば移植数日前に水腫を吸引してから移植する、あるいは前もって切除あるいは切断手術を行う。
⑬ SEET法を行う(内膜の活性化、2段階胚移植を改良したもの)。移植の時にエンブリオグルーを使い移植する(ヒアルロン酸が多く含まれており、より接着性が高いとされています)。
移植に先立ってGM-CSFを子宮腔内に注入する。(免疫の活性化)
⑭ EMMA(子宮内細菌叢検査、乳酸桿菌の割合を調べる)、ALICE(子宮内の内膜炎を起こす菌が子宮腔内にいるかの検査)検査を行い、子宮内の乳酸桿菌を増やしたり(ラクトフェリンを内服)、内膜炎を起こす菌を排除したり(抗生剤を内服)します。
⑮ 投与している黄体ホルモン膣錠に黄体ホルモンの筋肉注射剤あるいは皮下注射剤(輸入)を加える。膣錠では黄体ホルモンの吸収が不十分な症例がある。黄体ホルモンの吸収が悪いと内膜の機能が悪く、着床の窓が適切な日に発現しないのと、免疫抑制も不十分となります。
⑯ 凍結融解胚盤胞移植2日前から10日間安全な免疫抑制剤であるタクロリムスを内服する。Tリンパ球の比率、Th1/Th2を測定し受精卵を拒絶しやすい症例に投与する。証明はされていませんが効果があるとの報告があります。
胚盤胞ができて、内膜が機能していれば必ず妊娠すると考えます。必要であれば、様々なオプションを活用して早期に出産しましょう。