ページトップ

トピックス

Topics

卵巣予備能の最大活用-1周期に2回採卵を行う方法 (DuoStim)

論文紹介

2016年10月の、HART TVカンファレンスで取り上げた論文を紹介します。
※内容をざっと知りたいという方は、「要約」と「まとめ」だけお読みください。

“Follicular versus luteal phase ovarian stimulation during the same menstrual cycle (DuoStim) in a reduced ovarian reserve population results in a similar euploid blastocyst formation rate: new insight in ovarian reserve exploitation”

(Fertil. Steril., 2016)

「卵巣予備能の低い患者に対し、同一月経周期の卵胞期と黄体期に卵巣刺激を行ったところ(DuoStim)、正常染色体数の胚盤胞形成率は同等であった:卵巣予備能の活用に関する新しい知見」

・要約

この研究では、同一月経周期の卵胞期(FP)と黄体期(LP)に2回卵巣刺激を行い、得られた胚盤胞の数や正常染色体数の(以下正常な)胚盤胞の割合を比較しました。その結果、FPでもLPでも得られる胚盤胞の数と質に有意差はなく、1回の周期で2回の採卵をすることにより、少なくとも一つの正常染色体(以下euploid)胚盤胞が得られる患者の割合が41.9%から69.8%に上昇することがわかりました。

・背景

近年、若年の癌患者で抗がん剤治療開始前に妊孕性温存のための早期の介入が必要な例に対し、月経周期のどの時期からでも卵巣刺激開始できるランダムスタート法といった方法が行われるようになってきました。

また、1回の排卵周期に2回の卵巣刺激を行う方法を主に卵巣予備能力の低下した患者に行い、両周期で同数の卵子と胚盤胞が得られたといった報告もありますが、胚盤胞の質について調べた報告はいまだありません。

・方法

本研究では、得られた胚盤胞に対し異数性評価のための着床前遺伝診断を行い、MⅡ卵あたりの正常な胚盤胞の割合をFPとLPで比較検討しました。

対象患者は、卵巣予備能の低下した患者で、平均年齢39.2歳、AMH平均0.7ng/ml、前胞状卵胞数が平均5.2個です。

刺激は、両者ともアンタゴニスト法(月経開始2日目からと、採卵後5日目からrFSH300単位+rLH75単位を連日投与開始)で行いました。採卵前のトリガーはGnRHアゴニスト注射を使用しました。得られた胚盤胞は全てガラス化保存し、自然排卵周期で移植を行いました。

・結果

43人の患者にFP, LPの両方で採卵を行い、それぞれ42人からMⅡ卵が得られました。1個以上の胚盤胞が得られた例がそれぞれ31人と33人で、いずれの周期でも胚盤胞が得られなかった例が3人ありました。

それぞれの周期で要した刺激日数(9.6日 vs 10.3日)、得られた卵子の数(5.1個vs 5.7個)、MⅡ卵の数(3.4個vs 4.1個)、受精卵数(2.3個 vs 3.2個)の平均値に有意差を認めず、得られたMⅡ卵あたりの胚盤胞到達率(34.5% vs 33.5%)、euploid胚盤胞率(16.2% vs 15.0%)に有意差を認めませんでした。生検した胚盤胞あたりのグレードや、euploid率(46.9% vs 44.8%)にも有意差を認めませんでした。

FPおよびLP周期でそれぞれ18人、23人の患者が少なくとも1つのeuploidの胚盤胞を得ました。後者のうち12人は、LP周期でしかeuploid胚盤胞が得られませんでした。すなわち、LP周期で2度目の採卵を行うことは、少なくとも1つのeuploid胚盤胞が得られる割合を18/43(41.9%)から30/43(69.8%)に上昇させました。

現時点で15個のeuploid胚盤胞について凍結胚移植が行われ、FP刺激で得られた胚盤胞7個のうち、5個(71.4%)が継続妊娠に至り、LP刺激で得られた胚盤胞8個のうち5個(62.5%)が継続妊娠に至りました。

・まとめ

本研究結果から、1回の周期で卵胞期と黄体期の2回卵巣刺激を行い、得られた卵の数も質も両者で差がないことが明らかとなりました。癌治療などのため早急に採卵が必要である場合に加えて、卵巣予備能が低下し、時間が貴重であるような症例にもこのDuoStim法は有用であると考えられます。

当院でも、卵巣予備能の比較的低下した患者さんに対し、通常の採卵で採卵数が少なかった場合や排卵済みであった場合に、採卵後5日目から再度刺激を行い、採卵を行う場合があります。黄体期では黄体ホルモンによって下垂体が抑制されているため、内因性のLHサージが起きにくく、排卵済みが避けやすいといったメリットもあります。限られた治療回数の中でできるだけ多くの胚盤胞を得るには、時期にかかわらず出だしの多く見えている時期から刺激を開始することも効率的な方法であると考えられます。