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胚盤胞の形態(何日目の胚盤胞か、グレード)やTE(栄養外胚葉)の生検(PGT-A;着床前診断)の有無やAS (artificial shrinkage;人工的収縮)などのラボでの操作と融解後胚盤胞の状態(変性)や着床(生児出産率)との関係

論文紹介

胚盤胞の形態(何日目の胚盤胞か、グレード)やTE(栄養外胚葉)の生検(PGT-A;着床前診断)の有無やAS (artificial shrinkage;人工的収縮)などのラボでの操作と融解後胚盤胞の状態(変性)や着床(生児出産率)との関係

Human Reproduction  2018年11月号、———— and Laura Rienzi イタリア、ローマからの論文
※この論文には、向田哲規先生(広島HARTクリニック 院長)の2006年の論文が引用されています

【参考】
2004年から2014年までイタリアでは法律で移植は3個まで、受精卵の凍結は禁止とされ、余剰な卵の凍結は未受精卵で行わなければならなかった(困難な卵子の凍結をガラス化で行っていた)。その間、明らかに治療成績低下したので、有効なIVFの治療機会を奪っているとの判断により、2015年から受精卵の凍結が法律で認められている。

【はじめに】
ガラス化による卵子や胚の凍結によりOHSSのリスクを最小にし、SET(単一胚移植)により双胎妊娠を減らすことができる。SETは移植胚の選択が重要であり、PGT-Aによる正常染色体数胚盤胞移植は着床を最も改善する可能性がある。胚盤胞のガラス化保存は体外受精で余剰胚の凍結や全胚凍結やPGT-A周期で重要な役割を演じている。しかし融解後の生存率、特にTEの生検後の融解後生存率の研究は少ない。ある論文はガラス化1回とTE生検1回、ガラス化2回とTE生検1回、ガラス化2回とTE生検2回、とを比較し操作回数が増えると生存率が下がり、妊娠出産率が下がるとしているが、症例数が少なかったり、逆に変わらないとの報告もあるが、1回目に緩慢凍結法を行っていたりしている。さらにTE生検後、3時間以上経過したり、再拡大したりした方が着床率が高いとの論文もあれば、TE生検してもしなくても生存率は変わりがないとの論文もある。したがって多くの研究者が、ガラス化融解後の胚盤胞の生存率に影響するすべての要因や、PGTを行うことの生児出生率への影響を明確に評価したりする必要がある。

【目的】
栄養外胚葉の生検の有無やガラス化前の胚盤胞の質や胚盤胞のガラス化前にAS(人工的収縮)を行うことの融解後の胚盤胞への影響や生児出産に及ぼす影響を知ること。

【対象と方法】
2016年6月~2017年8月の間でIVF センター1(おそらく2012年Dr.Mは見学済み)とIVFセンター2で行われたPGT-Aあり、あるいはPGT-Aなしの単一ガラス化胚盤胞融解移植1671人の患者の2129個の胚盤胞が対象である。両施設とも全胚凍結で治療を行っている。ガラス化前の主な操作として、(ⅰ)317個のPGT-Aなし、ASなし(センター1)、(ⅱ)723個(センター1)と245個(センター2)のPGT-Aあり、あえてASは行っていないが、生検して潰れた胚盤胞を30分以内にガラス化したのでAS行ったと同じ状態、(ⅲ)844個のPGT-Aなし、レーザーを使ったASあり(センター2)、の3郡に分けて分析した(figureⅠ)。

凍結胚盤胞を融解し、1.5時間後に2108個の胚盤胞を評価した。変性がないか部分的か、再拡張(全か、部分的か、なしか)したか、と融解後の胚盤胞の形態的評価を行った。ガラス化前の状態と融解後の状態の関係、融解後の状態に加えてPGT-AをしていないSET(単一胚盤胞移植)の生児出産率、あるいはPGT-Aを行い正常染色体数の胚盤胞のSETの生児出産率を調べた。PGT-Aの生検をしない周期でもガラス化は全拡大胚盤胞で行った。センター1では生検をしない胚盤胞は拡大した状態でASをしないでガラス化した、一方センター2ではレーザーを用いたASを行いガラス化した。TE生検周期で両クリニックともD3に透明帯開口は行っていない、ガラス化は生検後胚盤胞が潰れている30分以内に行った。移植は1個の胚盤胞のみで行った。

【結果】
全体として変性率は1%(21個/2129個)であった。不妊原因や誘発法や培養液や培養システムや精子の状態やガラス化前の胚盤胞の発達段階は融解後の変性と関係なかった。ガラス化や融解のキットや胚培養師や施設の違いで変性率に差はなかった。重要なのは、PGT-AのためにTE生検を行うことは、融解後の変性率を高くしなかった。(TableⅠ)

胚盤胞にAS(人工的に胞胚腔が潰れた状態にする;レーザーを用いたASあるいはTEの生検により胞胚腔が潰れる)を行うと融解後に変性リスクが低かった。反対にガラス化前に形態的に不良であった胚盤胞や、発育が遅く7日目に拡大胚盤胞に到達したものは変性リスクが顕著に高かった。PGTをせずに(胞胚腔が潰れていない)胞胚腔が拡大したままの胚盤胞のガラス化の生存率は97.2%と変性が多くなり生存率が低かった。(TableⅡ)

全体の97.5%の胚盤胞が融解1.5時間後に再拡張し、2.5%(53個/2108個)が融解1.5時間後に再拡張しなかった。再拡張しない大きな要因は形態的に胚盤胞の質が不良であることと発育が遅く、7日目にやっと拡大胚盤胞になることであった。TEの生検やASとは関係なかった。再拡張率は、ガラス化前に拡大胚盤胞にD5,D6,D7になったものは、それぞれ、99.7%、97.4%、87.3%であった。さらに、ガラス化前の胚盤胞発達段階で、胚盤胞が拡張していない、拡大胚盤胞、ハッチングしている胚盤胞、完全脱出胚盤胞はそれぞれ100%、97.9%、95.5%、92.3%であった。

生児出産率はガラス化前の胚盤胞をPGTしないでSETしたもの、PGT-Aを行って結果が正常染色体数であった胚盤胞をSETしたものに分けて、それぞれでD5,6,7に拡大胚盤胞に到達したものを、その質で非常に良い、良い、普通、不良に分けて生児出産率を分析した。生児出産率は、全体でPGT-AなしでSETは26.1%、PGT-A結果が正常であった胚盤胞SETは40.5%であった。質が不良であった胚盤胞ではPGT-AなしSETで2.1%(1/48)、正常染色体数胚盤胞SETで7.3%(5/68)で出産率が低かった。同様に発育が遅くてD7に拡大胚盤胞になったものはそれぞれ8.3%(3/36)と15.1%(11/73)で生児出産率が.低かった。(TableⅢ)

【考察】
今回の研究では、TEの生検を行っても融解後の変性は変わらなかった。ASを行なわないと融解後の生存率が97.2%で、レーザーであるいは生検でAS

を行うと、生存率はそれぞれ99.3%と99.4%で良好であった。2013年ScottらはTEのバイオプシーは変性率を上げないと報告している。これらのエビデンスは胞胚腔が潰れた方がガラス化には良いことを示している。過去にはMukaidaらは2006年に微小針やレーザーを用いたASで、生存率が86%から97.2%に改善したとASの有効性を報告している。2015年にVan LanduytらはASをすると変性率が8%から2%に減ると報告している。今回の我々のデータはTEのバイオプシーを行わない胚盤胞にASを行うことやTEのバイオプシー後胞胚腔を拡大させないでガラス化することが良いことを示唆している。Desai等は質が劣る胚盤胞や発達が遅れる胚盤胞は融解後の生存率が低いと2016年に報告している。

融解後の胚盤胞の再拡張は、ASやTEの生検とは関係なく、ガラス化前の胞胚腔の拡大程度と関係しており、ガラス化前にハッチングやハッチドしていると1.5時間以内には再拡張し難かった。これらの証拠は胞胚腔の水分がより多いと融解後のリスクがより高くなることを示唆している。過去の報告から、胞胚腔の水分量や、透明帯の大きな開口や除去は凍結に際しての脱水や、凍結保護剤の浸透に関係している可能性がある。この研究ではPGTのTE生検後のガラス化は胞胚腔が再拡大しない30以内とした(96%は1.5時間以上再拡大しないとの報告があるけれども)。Chenらの報告では今回の結果とは反対であるがその報告の問題点は質の良くない胚盤胞は除外したり、SETと2個移植が含まれていて、融解後状態の良い胚盤胞しか移植していない、云々、省略。

最後に重要な結果は、ガラス化前の胚盤胞の質が悪く、発達が遅い胚盤胞は生存率は良いけれども、正常染色体数胚盤胞を移植しても生児出生率が15%以下と低かった。不良胚盤胞しかできない場合のSETの適用は?2個ETか。

【感想】
①今回ここまでガラス化について細部まで検証されているのは、イタリアでは胚の凍結は法律で禁止されていたため、細胞が大きく、非常に困難と思われる卵子(未受精卵)凍結を緩慢凍結ではうまくいかなかったので、ガラス化で行った歴史があるため、ガラス化保存の実際に詳しいのだと思う。

②ガラス化をして融解後に変性が起こるガラス化法は十分だとは言えないと考えます。なぜなら融解後に生存しているように見えてもダメージを受けている細胞があるからで、融解後の生存率は基本的に0%を目標に努力をするべきだと考えます。③ガラス化は細胞内液を瞬時にガラス化するのであり、そのため細胞周囲の水分量は最少が望ましいと考えます。したがって当然ASは行った方が良いとの結論になると考えます。

④受精卵によって生存能力は異なっており、胚盤胞までの体外培養も万人に適しているわけではなく、グレードが低い胚で初期胚を新鮮胚移植し生児出産に至るケースも稀に経験します。さらにガラス化法も万人に適しているわけではなく、グレードの低い胚盤胞しかできない患者さんで、ガラス化しないで新鮮胚移植してやっと生児出産に至ったケースも稀に経験します。PGT-Aも万人に適しているわけではなく、不良胚盤胞や発育の遅い胚盤胞などの生存能力の低い胚盤胞では双胎にはなりにくいため、PGT-Aを行わず複数移植したり、ガラス化も行わず複数新鮮胚移植したりする方が良いケースがあると考えます。