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ヒトの受精卵で遺伝子編集(中国)

院長記事

最近ヒトの多精子受精卵を使って遺伝子編集を行った論文が中国から2つ発表されました。

多精子受精卵は、卵子に精子が2匹以上入った受精卵で、受精5日後までに発育を停止し、人になることはありません。今回の論文ではこれらを用いて遺伝子編集の実験が行われました。

遺伝子を変える方法としては、従来の交配と遺伝子組み換えと遺伝子編集(ゲノム編集)があります。家畜や農作物の品種改良、たとえばおいしい米やブドウなど食品としてすでに市場に流通しているものや競馬のサラブレッドなどは、何世代にもわたって交配を繰り返し、大変な労力と時間を要します。遺伝子組み換えは短期に行えますが、遺伝子を目的に合ったものに変えられる確率は低く効率が良くありません。

ゲノム編集はたとえば肉牛の場合、1頭当たり肉を多く採りたいので、多く筋肉がつくのを抑制している遺伝子を改変して機能しないようにします。そうすると1.5倍くらい多くの肉が採れる肉牛ができるのです。食用の魚も同様なことが可能ですが、まだ市場には出回っていないと思います。

さて2015年4月の中国からの論文ではヘモグロビン異常で貧血を起こす病気(βサラセミア)の遺伝子が正常になるよう多精子受精卵を使ってゲノム編集(塩基を1個置き換える)を行ったのですが、86個の受精卵にゲノム編集を試み、遺伝子の改変が確認できたのは28個のみでした。しかし目的以外の遺伝子にも変異が見つかりました。さらに、受精卵にゲノム編集をして遺伝子を改変すれば、2日目に4細胞、3日目に8細胞と分割していきすべての細胞に遺伝子改変が確認できるはずでしたが、改変してない細胞も混在しており、モザイクの状態でした。効率が悪いのと予期せぬ異常が起こってしまうので実験は中止となりました。

もう一つの論文は、ヒト受精卵のゲノム編集で、HIVに感染しない細胞を作るというもので、45個の受精卵のうち4個に改変が確認できたというものでした。しかし結果は上記と同じで、技術が未熟すぎると考えられます。まだ科学技術がデザイナーベビーなど考えられるレベルには達しておらず、一部の研究者は遺伝病の治療をしたいと考えられていると思いますが、神の領域に手を出すには、膨大な時間と膨大な研究が必要なのだと思います。

なお、世界の主だった国では、ヒトの遺伝子改変は禁止されています。